企業の研究開発職がブルシット・ジョブだった



「つらい。仕事辞めたい」

「この仕事に意義が感じられない」

「この職場に私が存在する意味あるのかな。私いなくても変わらないよね」


 私は毎日仕事に対してネガティヴな感情を持ち、定時が来るのを指折り数えて待っている人間だ。しかし職場の環境が悪いわけではない。しっかり給与も貰っているし、社員寮など福利厚生も充実している。月残業5時間以下をキメられるほど労働環境もホワイトだ。上司やお局様にいじめられているわけでもない(めんどくさいおじさんはいるが)

 それでも毎日辞めたいと思い、7時間45分の勤務時間を耐えている。あまりにも現職がストレスなので、なぜ毎日毎日仕事が嫌になるのか書き記そうと思う。


『ブルシット・ジョブ クソどうでもよい仕事の理論』というデヴィッド・クレーバー氏の著書がある。その本で説明されるブルシット・ジョブというのはその仕事が何にも役に立たないと労働者本人が思う仕事である。その実用的定義を以下に引用する。

「ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。」

 自分の従事してる仕事がクソだという事実は労働者の心に重い影を落とす。ドストエフスキーがシベリアの収容所で考えた最悪の拷問は「だれの目にも意味のない作業をいつはてることもなく強制すること」であった。

 私はこの本を読んで自分が仕事を辞めたいのはこれが原因だと理解した。今の仕事に意味を感じられないと心から思っているのである。どうりで仕事が面白くないとしか思えないはずである。



 実際に仕事のどういった点を意味のないものだと思っているか書き記そう。

 まず私は化学メーカーの研究開発部に勤めている。修士卒の技術職であり、総合職だ。今の会社には新卒で入社し、4年目となる。入社即辞めずに3年まともに勤めただけ褒めてほしいところだ(仕事の愚痴を言いながらも転職を決められなかった口だけのダメ人間なだけなのだが)。扱っているのは汎用化学品だ(大手に入ったので研究職のうちでも何を扱う部署になるかは入社直前まで分からなかった。けして今の仕事をよく知って自分で選んだわけではない)


 仕事は主に以下の3つである。


①研究テーマの開発(研究所スケールから製品にするまでの工場での試作対応・物性評価など)


②工場対応・顧客対応 (変更や不具合があった場合の物性評価など)


③雑務(会議、職場の安全に関する作業、機器管理など)


 ②は良い。お客様の困ったことに対応して報告書を完成させたり、さらに感謝されたりなんかするとやったかいがある。③は非常にめんどくさい。特に安全に関してはルールが多すぎると思う。しかし必要ならやらざるを得ないと思う。


 問題は①である。新製品の開発、まったくやる気が起きない。以下箇条書きにブルシットな点を列挙する。


・開発品に需要がない

 とりあえず最初に上司から与えられたテーマの開発が終わり、やっと顧客紹介が始まったものの顧客からの反応は悪い。現行品から開発品に乗り換えるほど目新しくも、すごい性能でもないからだ。そもそもコンセプトが悪いと同僚に言われる。


・研究なのに新規性がない

 これは企業の研究開発職では仕方ないかもしれないが、本当に新規性があるものに挑戦しない。必ず辿り着ける目標値をかかげて行う。特許も審査が甘く、新規性がなくてもけっこう簡単に取ることができる。大学でないと基礎研究はできないのだろう。逆に企業は実用的で良いと思う人は気にしなくて良いポイントだろう (私は学問的な研究の方が好き)


・開発テーマがない

 現在のテーマが終わってから今後取り組むべき新しいテーマがわからない。テーマの創出は4年目の私が考えるべきことなのだろうか? しかしやりたいことはない。会社の未来が見えない。上司はどう考えているのだろうか?


・用途を開拓できていない価値がわからない材料の評価

 よそのグループが開発してる材料の評価を頼まれたけど、何に使うのかが決まってない。ほんとうに売れるのか、どう持っていきたいのか謎である。非常に不安になる。


・開発品を採用されてもおそらく嬉しくない

 自分の作った材料が市場にでて嬉しく思ってる自分を想像できない。汎用製品であり、一般の市民はスーパーで手に取った商品の材料になど想いを馳せないだろう。それでは何も世の中に影響していないのと同じではないだろうか? ただし開発品を採用した顧客が嬉しがってくれれば、自分も嬉しくなると思う。しかし開発品の価値を信じてないので顧客が喜ぶ様子も想像できない。


・業界、製品、技術に興味がない

 汎用製品であり、さらに研究して良い製品とすることに消費者目線から見て興味がない。働いて知識をつけたら興味が湧くかと思っていたが、そんなことはなかった。


・会議中にうとうとする

 興味がなさすぎる。社会人としての適性がない。


・仕事ができない

 いつも自分は業界についてや技術の知識もないし、段取り悪いし、資料作りも下手だし、仕事ができないなと思う。落ち込む。


・そもそも研究開発に資金をかけてる理由は?

 会社として研究開発部に資金を投入するのは良いことだが、もっと長期スパンで基礎研究をし、価値のある材料開発をしなければ意味がないのではないだろうか。既存の製品を生産・販売し続けることが、会社として利益を生む最も重要なところであり、開発部の人員とテーマの割り振り方を間違っているように思う。


・もう他の会社の製品使えば?

 他の会社の製品の方が品質が良いならそちらを使えば良くないか? 海外材でも安いし、品質良いんでしょ? と思う。会社に対して投げやりになってきた。


・暇である

 暇である。やらなきゃいけない仕事はあるが、期限がなかったりするので、だらだらと仕事をしてしまう。だから就業時間がより長く感じる。研究開発部のスタッフは仕事を自分で作ることを求められているのだろう。ここまで仕事が嫌な理由を述べてきた私が、上手い研究テーマの実験を思いついてやることなどできないと理解していただきたい。


 

 以上が私が現職を嫌いな理由である。残業が多く肉体的に厳しいわけでもなく、人間関係が悪いわけでもない。ただ仕事に意味を見出せなくて辛いのだ。それにより最終的に自分の価値まで揺らいできてしまう。仕事にやる気のないクソっぷりもちゃんと書いておいたが、仕事ができない、興味を持てない、愚痴ばっか言って真面目にやれない自分のことをどんどん嫌いになるのである。脳がダメージが負い、魂が薄汚れていく。

 だから私は転職をしようと思う。勉強を始めたが未経験で就職はかなり難しそうな業界なので、年度内に転職できるかはわからない。年収も200万下がるかもしれないが、それでも今の業界を辞めて、意味のある仕事(リアル・ジョブ)に就きたい。


 果たしてこの理由で転職を決めるのは甘えだろうか?